学会参加レポート
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はじめまして。にしたんARTクリニック京都院で管理胚培養士をしている遠藤雄史と申します。
日頃より、患者さまの大切な胚をお預かりする責任を胸に、丁寧な培養管理に努めております。このたび、「第70回日本生殖医学会合同学術講演会/2025年国際生殖医学会」に参加し、生殖医療に関する新しい知見や技術について学んでまいりました。
本コラムでは、現場の雰囲気や印象に残った発表内容、今後の臨床に活かせると感じたポイントなどを、お伝えできればと思います。
今回は、2025年4月26日~29日に東京国際フォーラムで開催された第70回日本生殖医学会合同学術講演会/2025年国際生殖医学会に参加しました。
1955年にヒトの生命現象を解き明かす目的で始まった日本生殖医学会(JSRM)ですが、今年は70回目の記念大会になりました。不妊治療なんて誰も見向きせず、ましてや体外受精が夢の技術であった当時、一体誰が今を想像できたでしょうか?しかし、この70年間で不可能が可能に変わった多くの瞬間を、私たち人類は目の当たりにしてきました。
今では3組に1組のカップルが何らかの治療を受けていると言われています。偉大な先人達が繋いできた知識や想いを引き継ぎ、安全に次世代に命を繋ぐことこそが不妊治療に携わる私たちの使命です。真摯に臨床に研究に取り組んでいかなければいけないと思います。
また、記念大会として2年毎に世界中で開催されている国際生殖医学会(IFFS)の合同学会でもありました。インド、中国からの参加が目立ち、世界の注目は確実にアジアだと勢いを感じました。国際色豊かで、これまでに日本国内で参加した学会の中では1番内容が良い学会でした。英語をしゃべれないと相手にされませんので、皆さん勉強してください!
大阪院の前田洋一院長が下記タイトルでポスター発表を行いました。「 The Influence of Microfluidic Preparation of Spermatozoa for Conventional IVF Insemination and ICSI」
名古屋院で先行して行っているハーベスター3mlを使用した培養成績報告です。ハーベスター(正式名:SwimCount™ Harvester)とはマイクロ流体力学を利用した精子調整用チャンバーで先進医療A(膜構造を用いた精子選別術)に利用されます。Swimcountharvester
閉鎖タイプなので、処理中の培養液蒸発やクロスコンタミネーションリスクが少なく、わずか数ステップで、簡単に高速直進運動精子を回収することができる、2024年末に日本でも使用できるようになった新しいデバイスです。
従来の密度勾配遠心法とスイムアップ法の併用法に比べ、ハーベスター法は遠心処理不要で簡単に短時間に処理できました。ふりかけ法と顕微受精法のどちらにも使用でき、培養成績も同等でした。今回の発表は速報だったので、今後はより詳細に解析したデータや臨床妊娠率などを検討していく予定です。矢野統括総院長も応援にきてくださり、研究デザインや比較するポイントをもっと絞ると良くなるとご指導いただきました。ありがとうございました。
その他にも面白い研究が続きました。特によく耳にしたのが、「プレコンセプションケア」と「AI」と「iPS細胞」です。
日本では、他の国々と比べて生殖補助医療(ART)の割合が多く、ARTを受ける女性の約半数が40歳以上という特徴があります。これは、世界の中でも不妊治療を始める年齢が高い国のひとつであることを示しています。
しかし一方で、妊娠に関する正しい知識や妊孕性(妊娠する力)への理解は十分とはいえません。加齢が妊孕性に与える影響を知らない人も多く、妊娠や出産に関する基本的な情報が正確に伝わっていないのが現状です。
その理由の一つとして、大人自身が性や生殖に関する知識を、学校教育ではなくSNSなどから断片的に得ているという背景があります。
日本の教育現場では、性や妊娠について中学校の保健体育で数時間学ぶだけとなっており、多くの人が大人になってからも必要な知識を持たないまま妊活や不妊治療に臨んでいます。
そこで重要となるのが、「プレコンセプションケア(Preconception Care)」です。
日本国内には、このプレコンセプションケアを必要としている潜在的な対象者が約250万人いると推計されています。重症化する前の段階で、早期のケアや介入が求められています。
また、日本人女性の約20%が“やせ”と判定されており、これは世界的にも高い割合となっています。過度なルッキズム(外見至上主義)や、栄養に関する教育の不足が原因とされており、“やせ”や鉄欠乏性貧血は不妊との関連も指摘されています。
さらに、朝食を摂らない女性は約10%にのぼるという報告もあります。これも妊娠のしにくさと関係しています。また、魚介類に含まれるオメガ脂肪酸は妊娠に有益とされますが、近年は魚離れが進んでいます。
こうしたことからも、妊娠や栄養に関する教育は不足していると考えられます。そのことからプレコンセプション外来は、単なる医療相談の場ではなく、「栄養教育の場」としての役割も果たすべきだと考えられます。
結婚して3年、一般不妊2年、それからART。いつまでに、何人子供をほしいのか、それによって治療戦略は変わります。
AMH測定してから、具体的なアクションを起こせます。初診の結果説明外来は、妊娠までの期間を縮める最大のチャンスと言えます。個別性の高い妊孕性教育が大切です。
にしたんARTクリニックで提供している初回カウンセリングとその後の初診はプレコン外来そのものではと思いました。もっと踏みこんだお話をしても良いのでは?
プレコン外来では患者さまの行動変容を起こさせ、家族計画を明確化させ実現させる事が重要と言えます
2022年に実施要項が細則化され、自費ですが医療として認められました。転座やモザイクなどの問題もあり、慎重に行わなければなりませんが、時代に合った運用設定の検討が必要です。また、PGT-Mは遺伝関連学会、疾患関連学会、人文分野の専門家が広く議論を深められるようになってきました。胚培養関連技術、生検、凍結などの技術革新は飛躍的に妊娠率を向上させています。
先進医療Bで2回目の検証が始まりました。保険になるのはいつか?具体的なことは分かりませんが、まだ数年かかると予測されます。
複数回の治療失敗や流産経験がある方が対象のPGTですが、まだまだ分かっていないことも多くあります。特にモザイク胚や転座などのセンシティブな問題には細心の注意を払わなければいけません。にしたんARTクリニックもPGTの技術をみなさんにご提供できるよう準備を進めてまいります。
精子をAIで選別し顕微授精(ICSI)をすると、若い培養士の受精率が向上し、胚培養結果には差はありませんでした。胚盤胞もAIが判断したものの正倍性率は高い結果になりました。しかし、まだまだ正しく判定できないこともあるので、運用と精度を高める必要があります。
AIを用いた技術サポートの開発が盛んにおこなわれるようになってきました。常に人手不足の胚培養士にとってAIの活用はますます重要になってくることでしょう。AIロボットによる顕微授精操作や胚品質評価など、今後の開発に期待したいと思います
ワンステップ融解を行い、良好な結果が報告されました。未受精卵子や分割胚にも使用できる製品もあります。生まれてきた子供への影響は充分に解明されておらず懸念が残るが、ラボフレンドリーな簡素化された手法なので、ミスの回避、トレーニング時間の短縮につながりそうです。
3年ほど前から、凍結胚の融解処理時間を短く(ワンステップ)しても回復率や妊娠率は長時間(複数ステップ)と比較して変わらないという報告があり、業界内で注目されています。
名古屋駅前院で先行して使用しているワンステップ融解は胚盤胞専用で良好な治療成績を上げています。手技が簡単なのはとてもいいことですが、安全性もしっかりと検証しながらエビデンスを積み上げて行く必要を感じました。
ナイーブ型多能性幹細胞から着床前モデルのBlastoidを作成し、着床現象をin vitroで再現することに成功した。ヒトではICMの一部がTEに変化する→TEの多層化→着床する。マウスとは現象が異なる。着床はブラックボックスと呼ばれ、長く解明されてこなかった領域であるが、iPS細胞や培養技術の発展で少しではあるが分かりつつある。
ここまでiPS細胞の研究が進んでいるのかと驚いた。再生医療とも密接なこの分野の発展は目覚ましいものがある。京都の地で発見された「世界の宝」であるこの細胞を、もっと知りたいと思いました。
今回の学会参加を通じて、国内外における生殖医療の現在地と、その背景にある研究者や臨床現場の熱意を改めて実感しました。また、プレコンセプションケアやAI技術、幹細胞研究など、今後の生殖医療の可能性はますます広がっており、私たち胚培養士も常に新しい知見を学び、日々の業務に活かしていく必要があると感じています。
これからも、患者さまの大切な願いをかなえるために、安心で質の高い治療を提供できるよう努めてまいります。
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