不妊治療

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hCG注射後の正しいタイミングとは?翌日だと遅いのか解説

妊娠を叶えるためには、正常な卵子の排卵が欠かせません。そのため、不妊治療では卵子の状態を調べる検査や、正常な排卵を起こすためのさまざまな治療があります。質の良い卵子を得るために効果的な治療法のひとつが、hCG注射です。

hCG注射をすでに使用している方の中には、注射後いつタイミングを持てば良いのか迷われている方もいるかもしれません。時間が限られている中で、当日や翌日のタイミングでは遅いのではと不安に思うこともあるでしょう。この記事では、hCG注射の特徴やhCG注射が排卵を起こす仕組み、注射後の効果的なタイミングなどを解説します。

hCG注射は排卵のタイミングをコントロールする

hCG注射は、卵子を得るために不妊治療で用いられる排卵誘発剤のひとつです。hCG注射には排卵を促すLH(黄体形成ホルモン)と化学構造が似た成分が含まれており、LHの値を一気に増加させることで排卵を引き起こします。

通常は、月経周期の中頃に卵胞が成熟するとLHが大量分泌されるLHサージという現象が起こります。LHサージが起こると、LHの分泌量がピークを迎えた10~12時間後に排卵するため、hCG注射でLHサージを起こすことによって、排卵のタイミングをコントロールすることが可能です。

不妊治療で期待されるhCG注射の効果

hCG注射は、排卵のタイミングをコントロールするのに役立つほか、不妊治療ではそれ以外の効果も期待されています。不妊治療で期待されているhCG注射の効果を見ていきましょう。

卵胞の最終的な成熟を助ける

hCG注射にはLH(黄体形成ホルモン)と同じ働きがあるため、卵胞の最終的な成熟を助けます。排卵前の卵胞はある程度の大きさまで発育していますが、LHサージによって急激に増大して排卵に向かいます。
不妊の原因には、卵子が十分に育っていないことも挙げられており、妊娠を叶えるためには十分に成熟した卵子が欠かせません。hCG注射を打つことによって、成熟した卵子を得ることが期待できます。

受精や採卵のタイミングを予測する

hCG注射を打つと、注射後の約36~40時間後に排卵が起こるとされています。LHサージから排卵が起こるまでの時間には個人差があるため、数時間の幅があるものの、ほぼ正確に排卵のタイミングを予測することが可能です。
そのため、タイミング指導(タイミング法)や人工授精(AIH)で受精のタイミングを図るとき、生殖補助医療(ART)で採卵を行うときには、hCG注射を打つことがスケジュールを立てる目安となってくれます。

黄体機能を回復させる

hCG注射は、黄体機能を回復させる治療にも用いられることがあります。黄体とは排卵後の卵胞が変化してできる組織のことで、プロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌します。プロゲステロンの役割は、子宮内膜の環境を妊娠に適した状態に整えることです。そのため、プロゲステロンの分泌が不十分だと、受精卵(胚)が着床しても妊娠を維持することができません。
このようなプロゲステロンの分泌異常を黄体機能不全といい、hCG注射には黄体を直接刺激して機能を回復させる効果が期待されています。

hCG注射は皮下注射と筋肉注射の2種類

hCG注射には、皮下注射の「オビドレル」と筋肉注射の「HCG」の2種類があります。それぞれの特徴は下記のとおりです。

2種類のhCG注射の比較

注射の名前         オビドレル                  HCG                    
注射の種類比較的強い皮下注射比較的強い筋肉注射
注射部位腹部太もも
投与方法自己注射通院注射
痛み比較的弱い比較的強い

オビドレルはペンタイプの皮下注射で、指導を受ければ自分で打つことができます。自分で針を刺す怖さがあるかもしれませんが、注射のために通院する必要がなく、治療と仕事やプライベートの両立がしやすいことや、時間的な負担が軽減できることがメリットです。不妊治療専門のクリニックでは、自己注射を始める前に安全に行うための指導を行っています。

一方、HCGは筋肉注射なので、医療従事者が接種する必要があります。筋肉に直接打つため痛みが強く、多くの場合は数回の通院が必要です。時間や身体的な負担はかかりますが、どうしても自己注射ができないという場合には、医療従事者に接種してもらえる安心感は大きいでしょう。

hCG注射には副作用があることに注意

排卵を促すことに効果があるhCG注射ですが、まれに副作用が起こることがあるため、事前に十分理解しておくことが大切です。hCG注射に見られる副作用には、下記のような症状があります。

OHSS(卵巣過剰刺激症候群)

hCG注射が起こす可能性がある副作用に、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)があります。OHSSは、排卵誘発剤によって卵巣が過剰に刺激される影響で卵巣がふくれ上がり、おなかや胸に水が溜まったり、血栓ができたりする疾患です。
悪化すると脳梗塞や肺梗塞といった重篤な合併症を引き起こすことがあるので、月経2日目くらいの出血量がある場合や、38℃以上の発熱がある場合など、異変に気がついたら早めにクリニックを受診することをおすすめします。

多胎妊娠

hCG注射の副作用として、多胎妊娠の可能性があります。多胎とは双子や三つ子など2人以上を同時に妊娠することです。卵子を育てる排卵誘発剤を使用して卵胞が複数育っている状態だと、hCG注射によって複数の卵子を排卵することがあるため、多胎の確率が高まります。
双子や三つ子の妊娠は喜ばしいものの、早産のリスクや産後の負担が大きくなることは否めません。多胎の可能性が高い場合にはどうするか、あらかじめ家族と話し合っておくことが大切です。

不妊治療に欠かせない排卵の知識

不妊治療を行う上で大切なことのひとつが、排卵のタイミングを正確に把握することです。ここでは、女性の体に起こるホルモンの変化と排卵の仕組みについて解説します。

排卵が起こる仕組み

排卵は、女性の体内でさまざまなホルモンが伝達されることによって起こります。下記は、ホルモンの伝達がどのように行われるかを表したものです。

女性の体内で起こるホルモンの伝達

ホルモンは、脳の視床下部から脳下垂体、卵巣へと刺激を連鎖させ、排卵に不可欠な女性ホルモンを分泌させます。2つの女性ホルモンのうち、1つはエストロゲン(卵胞ホルモン)です。エストロゲンは卵巣内で発育を始めた卵胞から分泌され、子宮内膜を増殖させて妊娠に備えます。
もう1つはプロゲステロン(黄体ホルモン)です。プロゲステロンは、厚くなった子宮内膜を受精卵(胚)が着床しやすいように維持する働きがあります。また、体温を上昇させる働きがあるため、月経周期を知る手掛かりにもなるホルモンです。

これら2つの女性ホルモンとともに、排卵に欠かせないホルモンとしてLH(黄体形成ホルモン)があります。LHはエストロゲンの増加を受けて分泌され、卵胞を成熟させて排卵を促します。排卵した卵胞は黄色く変化して黄体という組織になり、黄体から分泌されるのがプロゲステロンです。
こうしたホルモンの循環が排卵を引き起こし、女性の体内を妊娠可能な状態に整えます。

月経周期は4つの期間に分けられる

月経周期とは、月経開始日から次の月経が始まる前日まで期間のことで、一般的に25~38日間が1周期となります。月経周期はホルモンの分泌量の変化によって、下記の4つの期間に分けられます。

月経期

月経期は、月経開始日から月経が終了するまでの期間です。前の月経周期で妊娠しなかった場合、プロゲステロンが減少し、厚くなった子宮内膜が血液とともに排出されます。月経が始まると、FSH(卵胞刺激ホルモン)が分泌されます。

卵胞期

卵胞期は、月経の終わり頃から月経周期の中頃までの期間です。卵胞期にはFSHが卵巣を刺激し、エストロゲンの産生が促進されます。卵子のもととなる卵胞が成長し始め、子宮内膜が厚くなります。

排卵期

排卵期は、排卵日の前後16~32時間を表す期間です。卵胞の成熟によってLHの分泌量が急上昇するLHサージが起こり、LHサージのピークから12時間後くらいに排卵が起こります。

黄体期

黄体期は、排卵後から次の月経開始日までの期間です。排卵後に黄体化した卵胞からプロゲステロンが分泌されます。子宮内膜はより厚くなり、妊娠に適した状態になります。

排卵日を予測する方法

排卵日を予測するには、月経周期の中でホルモン値の変化を見ることが有効です。ホルモン値の変化を知る方法に、基礎体温測定があります。排卵が起こるとプロゲステロンの作用によって基礎体温が上昇するため、体温が上昇し始める日で排卵日を予測します。基礎体温測定は、朝目覚めたときに寝たままの状態で行う必要があるため、自宅で行える予測方法です。

排卵日を予測する方法にはほかに、超音波検査で卵胞の大きさを測定したり、尿中LH濃度やエストロゲン値を測定したりする方法があります。排卵障害や月経不順がある場合は、ホルモン剤や排卵誘発剤を使用して、排卵日をコントロールすることも選択肢になります。

妊娠の可能性があるのは排卵の5日前~翌日まで

妊娠率を高めるためには、排卵した卵子と精子が出会うタイミングを合わせる必要があります。公益社団法人日本産婦人科医会が引用している調査「排卵日とタイミング時期の妊娠率」では、排卵の1~2日前の性交渉で25~30%という高い妊娠率を示しています。
排卵の3日前~当日の妊娠率は10%前後で、排卵6日以前と排卵翌日以降の妊娠率はゼロです。このことから、妊娠の可能性があるのは排卵の5日前から翌日までということがわかります。

排卵日とタイミング時期の妊娠率

※出典 公益社団法人日本産婦人科医会「排卵日とタイミング時期の妊娠率

排卵前の性交渉で妊娠率が高まる理由

排卵日当日ではなく、排卵の1~2日前の性交渉で妊娠率が最も高くなるのは、卵子と精子の寿命が異なるためです。
卵子の寿命は排卵後24時間程度、精子の寿命は72時間程度といわれています。精子のほうが卵子よりも長時間にわたって受精能力を維持できるため、排卵の1~2日前に性交渉を行い「精子が卵子を待っている」状態にしておくことが、妊娠率を高めることにつながるのです。

hCG注射を打つ前日から翌日は妊娠率が高まる

hCG注射を打つと、36~40時間後に排卵するとされているため、hCG注射を打つ前日から翌日のあいだに性交渉を行うと、妊娠率が高まると考えられます。hCG注射と性交渉のタイミング例は、下記のとおりです。

hCG注射前後のタイミングの例

卵子の寿命は24時間程度、精子の寿命は72時間程度とすると、hCG注射を打つ直前から36~40時間のあいだに性交渉を持つことで、精子が卵子を待っている状態を作ることができます。
例えば、午前10時にhCG注射を打つとすると、その前日や当日、翌日中がベストなタイミングです。hCG注射を打った36~40時間後に排卵が起こるので、hCG注射の翌日にタイミングを合わせても遅いということはありません。

なかなか妊娠に至らない場合は、不妊治療のステップアップを検討

hCG注射で排卵日をコントロールし、性交渉のタイミング合わせてもなかなか妊娠に至らない場合は、不妊治療のステップアップも視野に入れることをおすすめします。タイミング指導(タイミング法)による妊娠率は、6回の月経周期で約50%となりますが、それ以降は横ばいにとどまる傾向があります。

hCG注射を組み合わせると妊娠率はわずかに向上しますが、それでも数%しか上昇しません。タイミング指導で妊娠に至らず、不妊治療のステップアップを検討する場合は、6ヵ月を目安にしましょう。
不妊治療のステップには大きく4段階あり、通常、下記のようにステップアップしていきます。

不妊治療のステップアップのイメージ

ステップ1:タイミング

タイミング法は、女性に排卵があり、男性の精液の所見に問題がない場合、最初に行う治療法です。超音波検査による卵胞モニタリングなどを用いて、医師が排卵日を正確に予測し、性交渉のタイミングをアドバイスします。

ステップ2:人工授精(AIH)

人工授精(AIH)は、採取した精液を培養液で洗浄濃縮し、子宮内に直接注入する不妊治療法です。排卵に合わせて行い、精子が泳ぐ距離を短縮することができるため、精子と卵子が出会う確率が高まります。

ステップ3:体外受精(C-IVF)

体外受精(Conventional-IVF/ふりかけ法)は、十分に発育した卵子を得て、事前に採取した精子と女性の体外で受精させて培養し、受精卵(胚)を子宮に移植する不妊治療法です。採卵した卵子に精子を振りかけて受精を促すことから、ふりかけ法とも呼ばれます。

ステップ4:顕微授精(ICSI)

顕微授精(ICSI)は、精子を卵子に直接注入して受精させ、培養して育てた受精卵(胚)を子宮に移植する不妊治療法です。顕微鏡を使って、卵子に細いガラス針を刺し、選別した良好な精子を1個注入します。

hCG注射のタイミングを図って妊娠率を高めよう

hCG注射は不妊治療で使用される排卵誘発剤のひとつで、排卵を促す作用があります。自己注射できる薬剤もあるため、注射のために通院することなく排卵日をコントロールすることが可能です。
排卵する時期を正確に予測し、性交渉や人工授精(AIH)、採卵のタイミングを合わせることで、妊娠の成功率を高めることにつながります。hCG注射による治療を始めてもなかなか妊娠に至らない場合は、不妊治療のステップアップを検討しましょう。

不妊治療のステップアップを適切に判断するためには、不妊治療クリニックに相談するのがおすすめです。にしたんARTクリニックでは、患者さま一人ひとりに寄り添い、お体の状態に合わせた適切な治療方法をご提案します。全国にあるすべての院で無料カウンセリングを行っておりますので、不妊にお悩みの方はお気軽にご相談ください。

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