体外受精

公開日: 更新日:

採卵時のアンタゴニスト法とは?メリットやデメリットを解説

採卵時のアンタゴニスト法とは?メリットやデメリットを解説

体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)の前に必要となるのが、採卵です。妊娠の確率高めるためにはできるだけ多くの卵胞を成熟させて、できるだけ多くの卵子を得る必要があります。それには、適切な卵巣刺激法を選択することが何よりも大切です。

卵巣刺激法には複数の種類がありますが、そのうちのひとつが「アンタゴニスト法」です。
アンタゴニスト法とはどのような卵巣刺激法で、どんなメリット・デメリットがあるのか、採卵までのスケジュールとともに解説します。

アンタゴニスト法とは?

アンタゴニスト法とは、体外受精(IVF)時の卵巣刺激方法のひとつです。卵巣刺激法は大きく分けて「完全自然周期法(Drug free)」「低刺激法(mild ovarian stimulation)」「高刺激法(hyper ovarian stimulation)」の3つがありますが、アンタゴニスト法はこのうちの高刺激法にあたります。

短時間で強い効果を発揮するGhRHアンタゴニスト製剤という薬剤で、排卵を抑制しながら行う卵巣刺激方法のため、アンタゴニスト法と呼ばれています。なお、日本では2006年より導入されている比較的新しい治療法です。現在では多くの不妊治療を扱うクリニックで採用されています。

アンタゴニスト法の適用対象となるのは、以下のような条件にあてはまる人です。

アンタゴニスト法の適用対象となる条件

  • 月経周期が25~38日の範囲内の人
  • LH(黄体形成ホルモン)値が高めの人(卵巣機能低下が見られる人)
  • AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が低い人 
  • ロング法やショート法でうまくいかなかった人
  • 卵胞が未成熟なまま排卵してしまう体質の人

上記にあてはまる場合、アンタゴニスト法が適用できます。しかし、実際に行ってみないと合う・合わないがわからない部分もあり、様子を見ながらトライしていくことになります。

アンタゴニスト法が向いている人

それぞれの卵巣刺激法には、体質や卵巣の状態によって合う・合わないがあります。アンタゴニスト法が向いている人は、下記のとおりです。

PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の場合

PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とは、卵巣の中に成長が止まった小さな嚢胞が多くとどまってしまうことを指します。排卵が起きなくなるため、無月経や月経不順、不正出血などの症状が現れます。妊娠可能な年代の女性の約5~10%に見られ 、不妊症の原因のひとつです。

OHSS(卵巣過剰刺激症候群)になりやすい場合

OHSS(卵巣過剰刺激症候群)とは、排卵誘発剤を使ったときに過剰に卵巣が刺激されてふくれ上がり、おなかや胸に水が溜まる症状のことをいいます。エストロゲン(卵胞ホルモン)の数値が高くなった場合に起こりやすく 、おなかの張りや腹部不快感、嘔気などの症状が現れます。

クロミッド法採卵で採卵率が悪い場合

クロミッド法採卵とは、卵巣刺激法に「クロミッド」という内服薬を使った上で採卵する方法です。比較的経済的・身体的な負担や副作用の頻度が少ない方法だといわれています。ただし、その分採卵できる数も少なくなるのが特徴です。 この方法で採卵できる確率が低い場合も、アンタゴニスト法の対象となります。

アンタゴニスト法による採卵の流れ

アンタゴニスト法による採卵は、下記のようなスケジュールで進みます。毎日決められた時間に自己注射をすれば、通院回数は月経開始から排卵日までのあいだに4~5回程度に収めることができます。

アンタゴニスト法の一般的な流れ

月経開始3日前までにクリニックを受診し、超音波検査で胞状卵胞数や前周期の残りの卵胞の有無を観察するほか、採血の上ホルモン値の検査を実施します(前の月経周期からピルを服用して調整することもあります)。


月経が始まったらクリニックに連絡し、月経3日目に来院してFSH/HMGの注射を開始。この日から9~14日間、医師に決められた時間に毎日自宅で注射を行います。

月経8日目に来院して超音波検査を行い、卵胞を観察します。育った卵胞のうち一番大きな卵胞が14~16mm以上の大きさになったら、セトロタイドやガニレストなどのGnRHアンタゴニスト製剤の皮下注射を併用して排卵を抑えながら、さらに採卵できる大きさまで育てていきます。

月経11~12日目に再度来院して超音波検査を行い、卵胞の大きさを測ります。16~18mm以上に育っていれば、排卵を促すトリガーとしてhCG注射、もしくはOHSS(卵巣過剰刺激症候群)になるリスクのある人にはGnRHアゴニスト点鼻薬を投与し、最終成熟させます。

hCG注射やGnRHアゴニスト点鼻薬を投与した2日後に採卵を実施。採卵は外科的な手術になるため、局所麻酔もしくは静脈麻酔を使用した上で行います。経腟超音波検査のプローブに細い針をつけて、腟から直接卵巣へ針を刺し、卵胞液ごと吸引して卵子を得ます。

胚培養士が顕微鏡下で、卵胞液中に卵子があるかどうかを確認。卵子が得られていることを確認できれば、パートナーの男性には採精室で採精してもらいます(もしくは、採卵当日に自宅で採精したものを用意)。採取した卵子と精子を体外受精(IVF)もしくは顕微授精(ICSI)させ、受精を成立させます。

受精卵は子宮と同じ環境にした培養器に入れて、胚になるまで最大6日間大切に育てられます。胚は女性側の子宮の環境が整っていれば、その月経周期のうちに子宮に戻す新鮮胚移植を実施。子宮の環境が整っていない場合は、胚を凍結保存し、次回以降の月経周期で凍結胚移植を行います。

胚移植から2~3週間後に、血液検査で妊娠すると排出されるhCGというホルモンを調べ、併せて経腟超音波検査で胎嚢の確認をして妊娠を判定します。
胚移植について詳しくは、こちらのページをご覧ください。胚移植とは?

アンタゴニスト法のメリット

アンタゴニスト法は、卵胞の発育が均一になる、自然排卵のリスクがほぼないといったメリットがあります。アンタゴニスト法の3つのメリットを、詳しく見ていきましょう。

自然排卵を抑制できるので、排卵してしまう可能性がほぼない

アンタゴニスト法は、採卵周期の初めの頃に下垂体ホルモンの抑制をしないため、ほかのロング法やショート法に比べて卵胞が発育しやすい特徴があります。その結果、発育状態も均一になり、採卵で多くの卵子を得られる可能性が高まります。多くの卵子が採れれば、次の周期に向けてそれらを凍結胚にしておき、胚移植に複数回チャレンジすることも可能です。
また、アンタゴニスト製剤で排卵を抑制しながら卵巣刺激を行うため、卵胞が成熟する前に排卵しやすい人でも自然排卵してしまう可能性がほぼありません。そのため、自然排卵のリスクを心配せず卵胞が大きく育つのを待つことができます。

採卵日が調整しやすい

上記とも関連しますが、自然排卵のリスクが低いため、排卵日のコントロールがしやすいこともアンタゴニスト法のメリットです。コントロールがしやすい分、採卵日も調整がしやすくなります。
また、採卵前に排卵してしまい、やむなく採卵をキャンセルしなければならなくなることも少なくなるはずです。

治療期間中の薬剤の使用量が少なく済む

ほかの卵巣刺激法では排卵誘発を行う前から点鼻薬を毎日欠かさず投与しなければならず、そのことが精神的負担になってしまう人も少なくありません。
一方、アンタゴニスト法では、月経周期3日目から薬剤を使い始める分、治療期間全体で見ると薬剤の使用量が少なくて済むので、精神的・身体的な負担も軽減されます。これらのメリットから、海外ではアンタゴニスト法が優先的に選択されることが多いようです。

アンタゴニスト法のデメリット

アンタゴニスト法のデメリットは、大きく下記の3つが挙げられます。それぞれ、詳しく見ていきましょう。

卵子の数が少ない場合、卵胞が育たない可能性がある

アンタゴニスト法の排卵抑制の度合いには、個人差があります。そのため、卵子の数が少ない場合に卵胞がうまく育たず、未成熟になってしまう可能性があることがデメリットです。また、卵胞の成長度合いをこまめに確認するため、通院回数が多くなってしまうことがあります。

費用負担が高くなりやすい

GnRHアンタゴニスト製剤は、ほかの薬剤よりも高価です。そのため、卵胞の発育が遅く、なかなか育たない場合は注射の回数がそれだけ増えてしまい、費用がかさみます。
その結果、ロング法やショート法よりも費用が高くなる可能性があります。

まれに早期排卵してしまうことがある

アンタゴニスト法では自然排卵のリスクを抑えながら卵巣刺激を行うものの、まれに早期排卵してしまうことがあります。自然排卵は100%防げるものではないということを理解し、治療を受ける必要があります。

体外受精(IVF)は、自分に合った卵巣刺激法で成功率を上げよう

体外受精(IVF)に必要な採卵の前に行う卵巣刺激法には、アンタゴニスト法だけでなくさまざまなものがあります。費用も異なれば、使用する薬剤や使用するタイミングも異なります。
そのため、医師に相談の上、自分の体質や生活スタイルに合った卵巣刺激法を選ぶのが大切です。そうすることで、妊娠の成功率を高めることが可能になるでしょう。

にしたんARTクリニックには、不妊治療の経験豊富な医師がそろっているため、どの患者さまにはどの方法がふさわしいのか、正しく判断することが可能です。不妊治療をステップアップして、体外受精にチャレンジすることになったときには、卵巣刺激法のことやそのメリット・デメリットについても医師に気軽に相談してみてください。患者さまに合った方法をご提案いたします。

にしたんARTクリニックでの
治療をお考えの方へ

患者さまに寄り添った治療を行い、より良い結果が得られるよう、まずは無料カウンセリングにてお話をお聞かせください。下記の「初回予約」ボタンからご予約いただけます。

初回予約