人工授精

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人工授精(AIH)で妊娠しない原因と不妊治療のステップアップを解説

人工授精(AIH)で妊娠しない原因と不妊治療のステップアップを解説

赤ちゃんを望んでいる不妊治療中の方の中には人工授精(AIH)することを決めたのに、すぐに結果が出なかったり、成功率が高くはないことを気にしたりしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

人工授精は一般不妊治療のひとつで、体内での自然な受精をサポートする治療であるため、自然妊娠やタイミング法(タイミング指導)に比べて成功率が劇的に高くなるわけではありません。治療を進めながら不妊の原因を見極め、不妊治療のステップアップについても考えておくことが大切です。

この記事では、人工授精で妊娠しない理由について解説するとともに、成功に向けて当事者が心掛けたいことを紹介します。人工授精で妊娠を目指している方は、ぜひ参考にしてください。

人工授精(AIH)とは、子宮内に精子を直接注入する不妊治療法

人工授精は、排卵日を正確に予測し、夫(パートナー)から採取した精液を採精・洗浄してから子宮内に注入する不妊治療法です。

人工授精を理解するために、まずは妊娠成立のプロセスを知っておきましょう。

妊娠するプロセス

卵巣の中で育った卵胞の壁が破れ、成熟した卵子が卵管に向けて放出されることを排卵といいます。放出された卵子は、卵管の先にある卵管采から卵管に取り込まれ、精子が子宮から泳いで到着するのを待ちます。卵子が受精能力をもっているのは、排卵後24時間です。

性交渉によって腟内に射精された精子は、卵管の奥へと自力で泳ぎ、卵子と出会うことができたら受精します。受精した卵子は細胞の分裂を繰り返しながら子宮へと移動し、子宮内膜に着床すると妊娠が成立します。排卵するのは月経から次の月経までの1周期のうち1度だけで、卵子が受精できるのは排卵後24時間以内なので、卵子と精子が出会って受精する確率を高めるには、このタイミングを逃さずに性交渉を行うことが重要です。

タイミング法と人工授精(AIH)

一般不妊治療のタイミング法では、妊娠しやすい排卵時期を検査によって詳しく推測し、性交渉を行うタイミングを指導します。

しかし、精子の状態が悪かったり、腟と子宮を結ぶ子宮頸管に閉塞があったりすると、精子は子宮内に入り込むことができません。こうした場合、ステップアップした不妊治療として選択されるのが、精子の泳ぐプロセスを短くして卵子との出会いを助ける人工授精です。

人工授精は、夫(パートナー)から採取した精液を胚培養士が洗浄・濃縮し、状態の良い精子だけを医師が子宮内に注入します。カテーテルを使って子宮の奥のほうに注入するため、卵管にたどり着く距離が、性交渉よりも短くなります。

人工授精(AIH)

「人工」と名がついていますが、治療でサポートするのは卵子と精子の出会いの可能性を高めるところまでで、受精できるかどうかは卵子と精子次第です。

人工授精(AIH)の妊娠率と推奨される実施回数

人工授精は、医師が精子を子宮内に注入することで受精の機会を手助けする方法であり、受精から妊娠までの流れに医療の手が加わることはなく、極めて自然妊娠に近い方法だといえます。そのため、人工授精を行ったからといって、タイミング法よりも劇的に妊娠の確率が上がるわけではないことに注意が必要です。

年齢別に見た、人工授精の施行回数と累積妊娠率の推移を見ていきましょう。

年齢別人工授精(AIH)施行回数と累積妊娠率

※出典 公益財団法人日本産婦人科医会「10.人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband’s semen) – 日本産婦人科医会

人工授精による妊娠の確率は、年齢によっても異なります。不妊の患者に対して、人工授精を4周期以上行った場合の累積妊娠率は、40歳未満で約20%、40歳以上で10~15%でした。

年齢別の人工授精施行回数と妊娠率を見ると、人工授精による妊娠率は施工回数を重ねると上昇しますが、6回目以降は頭打ちになります。つまり、人工授精を3~4回行っても良好な結果が得られない場合には、次のステップを検討すべきだといえます。

一方で、人工授精で妊娠した人の88%は4周期以内に妊娠しているという報告もあります。人工授精からステップアップを検討する際の目安にしてください。

人工授精(AIH)で妊娠しない理由

人工授精の妊娠率は決して高くはないため、実施しても確実に妊娠するわけではありません。では、妊娠しない理由はどのようなものがあるのでしょうか。

人工授精で妊娠しない主な原因は、排卵された卵子が卵管に進めていない、または、精子と卵子が出会ってはいるが受精できないことの2つです。それぞれの詳細を、下記で解説します。

排卵された卵子が卵管に進めていない

人工授精で妊娠しない場合、排卵された卵子が卵管に進めていない可能性があります。

卵子は、月に1度の排卵日に卵巣内の卵胞から放出され、卵管の先にある「卵管采」と呼ばれる部分にキャッチされて卵管内に取り込まれます。このプロセスを「ピックアップ」といい、何らかの理由でピックアップできないことを「ピックアップ障害」といいます。ピックアップ障害があると、人工授精を行って精子を注入しても、出会うべき卵子が卵管内にいないため妊娠には至りません。

ピックアップ障害は、原因を特定することができず、ピックアップ障害かどうかを調べる検査も現在のところありません。そのため、原因不明の不妊の多くを占めているといわれています。子宮筋腫や子宮内膜症、卵管の炎症による機能障害、卵管癒着、クラミジアなどの性感染症の既往歴などが原因として考えられますが、卵管や子宮の検査で異常が見つからないケースも少なくありません。子宮内膜症や子宮筋腫、腹膜炎などの開腹手術を経験した方に多く見られる傾向もあるので、既往歴のある方は腹腔鏡検査を受けることをおすすめします。

ピックアップ障害かどうかを調べることは現状難しいため、不妊治療をステップアップし、生殖補助医療(ART)で卵子と精子が受精成立した場合に、「これまでの不妊は、おそらくピックアップ障害が原因だった」と推測されるパターンがほとんどです。

精子と卵子が出会ってはいるが、受精できない

卵管の中で、精子と卵子が出会ったとしても、受精しなければ、妊娠には至りません。

卵子が無事に卵管采にピックアップされ、卵管内で待っている状態で精子を人工授精で注入すれば、精子と卵子が出会う機会を作ることはできます。しかし、卵子や精子に問題があったり、受精を阻害する原因があったりする場合は、受精成立は困難です。

精子と卵子が受精しない場合、主に3つの原因が考えられます。卵子に原因がある場合と、精子に原因がある場合、そのほかの原因がある場合について、詳しく下記で見ていきましょう。

卵子に原因がある場合

女性が持っている卵子の数は、生まれたときがピークです。毎日精巣で作られる精子と違って、女性が持つ卵子の数には上限があり、生まれてからその数が増えることはありません。排卵が起きるたびに少しずつ卵子を使い、やがて使い切ったときに閉経するといわれています。また、女性が産まれ持つ卵子の数は個体差があり、人それぞれです。

そのため、理論上、卵子が卵巣内に残っている間は妊娠することは可能ですが、卵子の絶対量が減るにつれ、質の良い卵子も減り、受精できる確率が低くなります。また、卵子の殻の部分に硬さや厚みが出て、精子が通過できないこともあります。

精子に原因がある場合

精子の数や運動率が不足している場合や、精子が卵子活性化を起こすことができない場合、人工授精では妊娠に至ることができません。

精液は精巣内で毎日作られていますが、射精はしていても精子の絶対量が少なかったり、精子の運動率が低かったりすると、卵子の中に侵入して受精する確率も当然ながら低くなります。

WHO(世界保健機関)は、自然妊娠が期待できる男性側の基準値について、精液量1.4ml以上、精液の中に含まれる精子の濃度1,600万/ml以上、運動率42%以上、精子形態率は1回の射精中4%以上が正常なら可とするという基準を設定しています。人工授精は、体内で自然な受精を促す方法であるため、この基準を下回る場合は、人工授精による妊娠は困難です。

また、通常、精子が卵子の殻を通過して進入すると、卵子内のカルシウムイオン濃度が上昇して卵子が活性化して受精の準備を整えます。しかし、精子の働きが弱い場合や、卵子活性化のための因子をもっていない場合には、卵子の活性化が起こらず、受精できないことがあります。

いずれにしても、精子の状態が悪い場合は、正常な受精に至らないことがあることを知っておいてください。

そのほかに原因がある場合

不妊は、男性と女性、どちらにも原因がある可能性があり、同時に両方が問題を抱えていることも少なくありません。この場合は、ステップアップをして体外受精(IVF/ふりかけ法)や顕微授精(ICSI/イクシー)をすることが推奨されます。

また、抗精子抗体も重要な不妊の原因のひとつです。抗精子抗体とは、精子を異物と見なして精子の働きを鈍らせたり、受精を妨げたりする働きがある抗体で、人工授精をしても精子が卵子までたどり着かなかったり、卵子に入り込めなかったりすることが考えられます。

抗精子抗体は、男女共にもっている可能性があり、女性の場合は、腹腔内にある、異物を見つける免疫細胞が精子にも反応し、抗精子抗体が生じるといわれています。男性の場合は、精巣や精巣上体にできた炎症や外傷などが原因で、男性自身の体内で抗精子抗体ができることも少なくありません。

抗精子抗体をもっているかどうかは、血液検査で調べることが可能です。抗精子抗体がある場合の不妊治療も、ステップアップをして体外受精や顕微授精が選択肢となります。

人工授精(AIH)の次の選択肢は、体外受精(IVF)か顕微授精(ICSI)

人工授精で妊娠に至らなかった場合、治療をステップアップすることを検討しましょう。人工授精の次のステップからは、採卵によって卵子を体外に取り出して受精操作をするため「生殖補助医療」と呼び、具体的な方法として「体外受精」と「顕微授精」があります。

体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)の流れ

体外受精と顕微授精のいずれの方法をとるかは、患者さまそれぞれの卵子・精子の状態などによって異なります。体外受精と顕微授精のそれぞれの詳細について、下記で見ていきましょう。

体外受精(IVF)とは

体外受精は、採卵手術によって卵子を体外に取り出します。この際、できるだけ多くの卵子を一度に取り出すために、排卵誘発剤を使って卵巣刺激法を行うこともあります。卵子を得ることができたら、夫(パートナー)から採取した精子を、シャーレ上でふりかけて受精を促します。このとき、精子はみずからの力で卵子の中に入ることが必要です。体の外で行われるのは受精のサポートまでで、受精卵(胚)が成熟したら女性の子宮に戻します。

顕微授精(ICSI)とは

顕微授精は、夫(パートナー)から採取した精子の中から質の良い精子を1個選び出し、顕微鏡下で細いガラス管を使って卵子に注入し、受精させる方法です。採卵によって卵子を体外に取り出すこと、またできるだけ多くの卵子を一度に取り出すために、薬剤を使って卵巣刺激を行うことは、体外受精と同じです。

顕微授精では厳選した精子を直接卵子に入れるため、状態の良い精子が少なくても受精できる確率が高くなります。受精卵(胚)を培養して成熟したら、女性の子宮に戻すのは体外受精と同じです。

生殖補助医療(ART)で解消できる不妊の問題

体外受精や顕微授精などの生殖補助医療を行うと、不妊の原因の多くを乗り越えることができ、妊娠の可能性が高まります。具体的に、生殖補助医療で解消できる不妊の問題は下記のとおりです。

ピックアップ障害や卵管の閉塞・狭窄

体外受精や顕微授精は、卵巣から採卵した卵子を使って行われます。そのため、排卵した卵子が卵管に取り込まれないピックアップ障害がある場合や、卵管の閉塞・狭窄が原因で妊娠に至らない場合に、この問題を解消することが可能です。

卵子の質

体外受精や顕微授精では、排卵誘発剤を使って卵巣に刺激を与える卵巣刺激法を行うことが少なくありません。卵巣刺激法を実施することで、質の良い卵子を一定数確保することができます。患者さまに合った方法の卵巣刺激法を行うことが必要です。

精子の質

タイミング法や人工授精では、実際に卵子と受精する精子を選ぶことはできません。体外受精では、夫(パートナー)から採取した精液を胚培養士が洗浄・濃縮するため、比較的状態の良い精子をふりかけることが可能です。また顕微授精では、1個でも状態の良い精子がいれば実施できるため、精子の量や質に問題があっても受精できる確率が高まるでしょう。

人工授精(AIH)からのステップアップを検討される方は、にしたんARTクリニックへご相談ください

不妊治療は、妊娠しない原因を徹底的に調べることが重要です。一般不妊治療で結果が出ない場合にも、諦めずに原因を探し、医師やカウンセラーと相談しながら次の手立てを検討しましょう。 にしたんARTクリニックでは、治療のステップアップのご相談も随時受け付けています。患者さまそれぞれの事情や身体の状況に合わせたフレキシブルな提案をしていますので、お悩みをお聞かせください。各院でカウンセラーが丁寧にお話をお伺いします。

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