生殖補助医療

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顕微授精(ICSI)のリスクとは?副作用や問題点について解説

顕微授精(ICSI)のリスクとは?副作用や問題点について解説

体外受精(Conventional-IVF/ふりかけ法)の方法のひとつに、顕微授精(ICSI)があります。顕微授精(ICSI)は、通常の体外受精(C-IVF)と何が異なるのでしょうか。副作用やリスクなども正しく理解した上で、治療方法を検討したいところです。

そこで今回は、顕微授精(ICSI)の概要のほか、考えられる副作用やリスク、治療の流れなどについて解説していきます。

顕微授精(ICSI)とは?

顕微授精(ICSI)とは、細いガラス製の針を使用して、1個の精子を卵子へ注入する体外受精(C-IVF)の方法です。精子を卵子へ注入する際は、顕微鏡で拡大視しながら行われます。
顕微授精はICSI(イクシイ)ともいい、Intracytoplasmic Sperm Injectionの頭文字を取ったものです。

顕微授精(ICSI)は、1992年にベルギーのパレルモ博士らによって初の妊娠例が報告されました。それ以後、この生殖補助医療(ART)の技術は急速に世界中へ普及し、日本においても1994年に分娩例が報告され、実施件数は年々増加しています。
通常、体外受精(C-IVF)は女性の体内から取り出した卵子へ精子を振りかけて受精を促します。しかし、従来のこの方法では受精が成立しない、あるいは精子の量が少ないなどの理由で、受精成立が見込めないといった問題点もありました。

体外受精(C-IVF)の場合、受精するためには卵子1個に対して運動精子が5万~20万個程度必要 とされています。その点、顕微授精(ICSI)であれば、卵子1個に対して精子1個があれば、理論上は受精が可能とされているのです。
顕微授精(ICSI)なら、精子の量が少ない方や、通常の体外受精(C-IVF)では受精が成立しない方などでも、妊娠成立の確率を高められると考えられています。

顕微授精(ICSI)のリスク

顕微授精(ICSI)には、卵巣を刺激することで発生するおそれがある副作用や、妊娠が成立しない可能性、胎児への影響、採卵・採精の際のリスクが考えられます。具体的な内容について見ていきましょう。

卵巣刺激によってOHSS(卵巣過剰刺激症候群)が発生する可能性がある

顕微授精(ICSI)に限った話ではありませんが、卵巣刺激を行う際に、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)が発生するリスクがあります。
卵巣刺激には、使用する薬剤の種類や量によって高刺激法や中刺激法、低刺激法、自然周期法といった方法がありますが、刺激が強くなるほど採取できる卵子の数が増える一方で、OHSSになる可能性も高くなります。

OHSSについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
卵巣刺激法(排卵誘発法)とは?

精子の状態によっては受精が成立しない

顕微授精(ICSI)では、卵子へ精子を1個ずつ針で注入しますが、精子の状態によって妊娠成立の確率が左右されます。形態が正常で運動性も良好な精子がない場合は、受精卵が得られない可能性もあるのです。
また、受精卵(胚)ができた場合も、すべての方が妊娠成立するわけではありません。

胎児への影響の有無が医学的にわかっていない

顕微授精(ICSI)の胎児への影響については、医学的には明確な結論が出ていないというのが現状です。
顕微授精(ICSI)によって、胎児にまったく影響がないと言い切れるわけではありません。胎児に異常が生じる確率は、自然妊娠と差がないと考えられています。

なお、顕微授精(ICSI)は男性不妊症の場合に行うケースが多いことから、顕微授精(ICSI)を実施した場合でも染色体や造精機能関連遺伝子の異常が発生する可能性はゼロではないといえます。

採卵時に体へ負担がかかる可能性がある

顕微授精(ICSI)に限った話ではありませんが、体の外で受精を行うためには、卵巣から卵子を取り出す必要があります。通常、採卵は腟から入れる超音波の機器に針をつけて、腟の壁を通して卵巣へ針を刺し卵子を取り出します。
その際、出血や麻酔によるリスク、感染症、他臓器損傷などが生じる可能性が考えられます。

出血

採卵を行う際は、腟の壁や卵巣から出血します。ほとんどの場合は、圧迫や時間経過によって収まりますが、まれに開腹手術で止血しなければならないケースもあります。

麻酔によるアレルギー

麻酔を使う場合は、麻酔によるアレルギー反応や呼吸抑制などのリスクも考慮する必要があります。

感染症

腟には雑菌がいるため、採卵で針を刺す過程で腟内の雑菌が体内へ移動し、感染症を引き起こす可能性があります。特に、子宮内膜症や腹膜炎の既往がある場合は、感染症を引き起こす可能性が高くなります。

他臓器損傷

卵巣の周囲には子宮や腸、膀胱、尿管などがあり、卵巣の位置によっては採卵の際にそれらを損傷する可能性があります。ただし、極めてまれな事例で、リスクは低いとされています。

採精後に治療が必要になる場合がある

顕微授精(ICSI)を実施するにあたり精液検査を行い、無精子症が判明した場合は、精巣内から精子を直接採取する治療を行う必要がありますが、その治療を行っていないクリニックもあります。
にしたんARTクリニックでは治療に対応していないため、他院を紹介させていただくこととなります。

双子妊娠の可能性がある

顕微授精(ICSI)に限った話ではありませんが、排卵誘発剤を使用する過程で複数の卵胞を育てることになります。顕微授精(ICSI)後に複数の受精卵をおなかに戻した場合(胚移植)、1個の受精卵を胚移植した場合に比べて多胎妊娠の確率が上昇します。また、1個の受精卵を胚移植した場合でも、多胎妊娠となる場合がまれにあります。

顕微授精(ICSI)が保険の適用対象となったことは安心材料に

2022年4月から、それまで自費診療だった人工授精(AIH)および顕微授精(ICSI)を含む体外受精(IVF)が、保険適用の対象となりました。そのため、患者さま自身の費用負担は軽減されています。不妊治療といえば高額な治療費が懸案でしたが、費用面のハードルは大幅に下がりました。

ただし、保険適用で生殖補助医療(ART)を行う場合は、年齢や治療回数に制限が生じます。条件を満たす場合にのみ保険が適用されるため、あらかじめ確認しておきましょう。

保険適用の対象となる条件は、下記のとおりです。なお、治療の回数は「胚移植」の回数がカウントされ、採卵回数については上限がありません。また、2人目の治療を行う際は回数がリセットされます。

体外受精(C-IVF)の保険の適用条件

  • 対象年齢:治療開始時の妻の年齢が43歳未満であること(男性側は年齢の上限なし)
  • 治療の回数の制限:40歳未満は6回まで、40歳以上43歳未満は3回まで
  • 婚姻関係:法的な婚姻関係あるいは事実婚関係(同一世帯に住んでいる、子供を認知予定、配偶者なし)であること

顕微授精(ICSI)に向いている人

これまで解説してきた特徴やリスクを踏まえると、顕微授精(ICSI)は次の2つのケースのいずれかもしくは両方にあてはまる場合に適応されます。

人工授精(AIH)や体外受精(C-IVF)で妊娠の成立に至らなかった場合

すでに人工授精(AIH)や体外受精(C-IVF)を行っており、妊娠成立に至らなかった場合や、受精率が非常に低かった場合には、顕微授精(ICSI)を検討します。
また、抗精子抗体を持っている方も、顕微授精(ICSI)の対象となることがあります。

男性不妊症の場合

乏精子症や精子無力症、精子奇形症などの場合も、顕微授精(ICSI)を行います。
精子の数が極端に少ない、精子の運動量が低いなどの原因で、その他の方法では受精が困難な場合、顕微授精(ICSI)で受精をサポートします。

顕微授精(ICSI)の流れ

顕微授精(ICSI)では、卵子や精子の採取から育った胚の移植まで、どのような手順で行われるのでしょうか。ここでは、顕微授精(ICSI)の治療の流れを5つのステップに分けて見ていきます。

1. 卵子を得る

まずは、卵巣内の卵胞を穿刺して卵子を得ます。
採取した卵子に付着している血液などを除去したら、卵子を培養液に入れて顕微授精(ICSI)を行うまで培養します。

2. 精子の採取と調整・選別

精液を採取し、洗浄処理を行って調整したのち、形が正常で動きが元気な精子を集めます。
運動量が多く元気な精子とそうでない精子は細胞密度が異なるため、その差を利用して未熟精子や死滅精子、白血球などを取り除いていく方法や、培養液に精液を分注し、浮いてきた精子のみを採取する方法で、元気な精子を選別します。

3. 精子を卵子に注入

顕微授精(ICSI)を行う前に、卵子を覆っている卵丘細胞を除去して卵子のみの状態にします。顕微授精(ICSI)に使用するのは、成熟している受精の準備が整った卵子のみです。
調整・選別した、形が正常で運動性も良好な精子の動きを止めたら、細いガラスの針に精子を吸引し、固定された卵子に精子を注入します。
受精卵の細胞分裂には、「紡錘体(ぼうすいたい)」という構造体が必要不可欠です。この紡錘体を損傷しないよう、慎重に精子を注入します。

4. 受精卵(胚)の培養

顕微授精(ICSI)を実施した後の受精卵(胚)を培養液に入れ、温度や酸素濃度、二酸化炭素濃度、窒素濃度が一定条件で管理された培養器内で2~6日間培養します。
タイムラプス機能を搭載した培養器なら、定点カメラで受精卵(胚)の状態を観察し続けることが可能です。通常の培養器とは異なり、受精確認や発育の確認のために受精卵(胚)を取り出す必要がなく、受精卵(胚)へのストレスを軽減できるメリットがあるとも考えられています。

5. 受精卵(胚)の移植

育ってきた受精卵(胚)を、移植専用のカテーテルを使用して子宮の中へ戻します。発育した受精卵(胚)が複数個ある場合、どの受精卵(胚)を子宮内へ移植するのかの基準となるのは「受精卵(胚)のグレード」です。妊娠率の高い受精卵(胚)を移植し、子宮内膜へ着床させます。針を使わないため、通常はほとんど痛みがありません。

受精卵(胚)のグレードについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
培養について

顕微授精(ICSI)のリスクも知って、不安は早めに相談しよう

顕微授精(ICSI)は従来の体外受精(C-IVF)よりも妊娠成立の確率が高まる一方で、今回解説してきたようにリスクを伴う治療です。これらのリスクについても正しく理解した上で、実施するかどうかを検討しなければなりません。とはいえ、特に男性不妊症の場合や、人工授精(AIH)や体外受精(C-IVF)で妊娠成立に至らなかった場合は、顕微授精(ICSI)をおすすめします。

顕微授精(ICSI)が実施されるようになってから30年程経過しており、無事妊娠へと至った実績もたくさんあります。自分たちが顕微授精(ICSI)をしたほうが良いかは、医師と共に慎重に考える必要がありますが、必要な方にとっては妊娠率を向上させる有効な方法といえるでしょう。

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